どうしてほしいの、この僕に
「わかった……と言いたいけど、無理」
『じゃあ無駄に思い切り悩めば?』
「えっ?」
『それも恋愛の醍醐味だもん。この人何考えているんだろうと何時間悩んでも答えは出ないけど、そうやって相手を想う時間すべてが未莉の心の答えなわけだし』
「私の……答え」
『だって好きだから知りたいって思うんでしょ? それはもう恋だよ』
 私は一瞬言葉を失った。
「違う……と思う」
『強情だねぇ。でも未莉もそのうちわかるって。そのときはすでに手遅れだろうけど』
 柚鈴の不吉な予言のせいで、背筋に寒気が走り身震いする。通話を終えた後も私はしばらく通勤かばんの横に座り込んだままぼんやりしていた。

 それからいつものように夕食を作った。魚を焼く間に、にんじんとごぼうを炒めて、白菜をゆでる。なんとなく今日は和食の気分だった。
 出来上がったものを皿に盛りつけて時計を見る。優輝はまだ帰ってこない。
 今日は何時頃帰ってくるのか、とか、ドラマの撮影がどのくらい進んでいるのか——むしろ知っていて当たり前のことを何も知らず、それでいてひとり分にはあり余る量の夕食を作ってしまう、そんな自分に少し嫌悪感を抱いてため息をついた。
 気晴らしに楽しいことを考えようとしたが、なぜか今朝の友広くんの顔が思い出され、さらに気がめいる。
『僕は未莉さんがほしい』
 ささやくような声とすがるような視線が脳裏によみがえった。
 あれは本気だったの?
 友広くんこそ社交辞令で私をからかっていたはず。あんなふうに直接的なセリフを口にするとは考えもしなかった。だから私も不器用すぎる言葉で彼を傷つけてしまったのだと思う。
 でも、他になんて言えばよかったのだろう。
 この先私が友広くんのことを好きになる可能性があるなら、もっと違う言い方があったかもしれない。
 だけどきっとそんな日は来ない。たとえ私が優輝の恋人でなくなっても。恋人なのかどうかもあやしい私だけど『好きな人がいる』と言ったのは嘘じゃないから。
 好きな人、か。やっぱり柚鈴の言うとおりなのかな。
 純粋に顔はきれいだし、スタイルも抜群にいいし、気は利くし、面倒見もよくて、嫌なことはしてこないし。
 優輝の姿を脳裏に思い描くだけで、胸の内側がくすぐったいような気持ちになった。
< 68 / 232 >

この作品をシェア

pagetop