強引上司がいきなり婚約者!?
「はい。なんでしょう」
呼ばれてそばへ行くと、兎川さんが資料を抱えて立ち上がった。
今日の兎川さんはシャークスキンの紺色スーツにブラックのネクタイを合わせている。
すらっとした長身の彼はなにを着ても似合うけれど、顔立ちや雰囲気が派手だから、私はシンプルな色合いのほうがいいと思う。
まあ偽の婚約者といえど、私の好みなんて兎川さんにはどうでもいいことだろうけど。
兎川さんはちらりと腕時計を確認すると、黒い目で私を見下ろした。
「15分後に紹介で新規のお客様がご来社する。アシスタントで入ってくれ。これ、目を通すように」
「えっ、15分後ですか!?」
私はどさりと渡された紙の束を受け取り、目を丸くした。
「ついさっきアポが入ったんだ。急げよ」
兎川さんはなんでもないことのように言って、スタスタとフロアを出て行く。
私は資料をしっかりと胸に抱えて、慌てて彼の後を追った。
もうっ、自分がデキるからって、なんでそんなに余裕たっぷりなの!
アポが入ったのがついさっきということは、本来営業事務の仕事であるこの資料の作成も、きっと兎川さんがひとりでちゃちゃっとこなしたのだ。