強引上司がいきなり婚約者!?
頭の中がいっぱいいっぱいになって、陸に上げられた魚みたいに息苦しい。
「ね、志帆ちゃんの彼氏ってまさか……」
いたずらっぽく目を光らせた専務が、その名前を囁こうと唇を私の耳元に寄せる。
それと同時に後ろから伸びてきた腕に肩を掴まれ、力強く引き寄せられた。
背中が硬い胸の中にすっぽりと収まると、さっきも感じた控えめな甘い香りが鼻先をくすぐる。
「人のものには手を出さない主義だって、お聞きしましたが」
低くて心地いい声が、今はどこか不機嫌そう。
顔を上げて振り向くと、ムスッとした兎川さんが目を細めて立っていた。
私の肩を抱いた大きな手のひらにぎゅっと力が込められる。
私は素早く息を吸った。
混乱する頭は思考停止状態でも、彼の温度を近くに感じるだけで全身の血液は全速力で駆け巡る。
朝比奈専務は一歩下がって距離を取ると、戦意がないことを示すように軽く両手を挙げた。
「そうそう。でも、この前会ったときは志帆ちゃんに好きな男がいるなんて思わなかったんだ。俺の勘が鈍ったのかな」
恥ずかしさで頬が熱くなる。
なんですか、専務のその特技。
たしかにあの時は"好きな男"なんていなかった。
でも今は勝手に頭の中に浮かんでくる人がいる。
私ですらまだ認めたくないことなのに、なんで専務には見抜けるのかな。