強引上司がいきなり婚約者!?
「ありがとう! 探してたんだよ、これ! あ〜、ほんとによかった」
蒼井さんはホッとしたように目尻を下げて、私の手をブンブン振る。
「実はこれ、この前の誕生日に嫁にもらったカフスなんだ。失くしたらぶっ飛ばされるところだったよ」
本気で冷や汗をかきそうな蒼井さんの様子を見て、私も頬を緩めた。
そうか、奥さんのプレゼントなんだ。
だから女性受けの良さそうな上品なセンスだって思ったんだ。
私は心の中で納得して頷く。
「そうだったんですか。よかったですね」
蒼井さんは去年結婚したばかりだけど、奥さんとは学生時代からの付き合いで、とっても愛妻家なんだってウワサだ。
いいなあって、思わず呟きそうになった。
視線を下げてブンブンと頭を振る。
どんなに羨んだって、私は偽物の婚約者だし。
彼が私に本気になるつもりがないってことは、契約の5項目を見ればすぐにわかる。
私がボーッとして下を向いていると、廊下を歩く足音が後ろから近づいてきた。
蒼井さんが私の肩越しにその人を見つけて両眉を上げる。
「都合よく手ぇ握ってんなよ」
不機嫌そうな兎川さんの声が聞こえたかと思うと、彼は足を止めることなく私たちを追い越していった。