伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
クレアは再び深いため息をつくと、窓の外に目を向けた。





今夜の舞踏会の主催者は、コールドウィン侯爵家だ。

コールドウィン侯爵家といえば、数百年前から続く名門中の名門で、この国の財界、経済界でも多大な影響力を持つ大貴族。

それほどの家柄から招かれるということは、この国の貴族や富豪にとって、王宮から招待を受けることに次ぐ位に、大変名誉なことなのだ。

先日、招待状を受け取ったアディンセル伯爵夫人は、歓喜した。

しかし、その直後、その招待状を穴が空くほど見つめた。

そこには、夫人やヴィヴィアンの他に、呼ばれるはずのないクレアの名前が書かれてあったのである。

何かの間違いだ、と夫人は思った。

だが、確かに今はクレアは正式にアディンセル伯爵家の娘だ。

コールドウィン侯爵家がきちんと調べ、招待されたとしても、何の不思議もない。

……あんな娘を社交の場にやるなんて、我が家が恥をかくだけだわ。適当に理由を付けて、お断りしましょう。それよりも、ヴィヴィアンのドレスをどうしましょう……。

この夜会にはきっと、名だたる貴族が集まるに違いない。自分の娘の結婚相手を探す良い機会だから目立つようにしないと、と伯爵夫人が意気込んだ、その時。

招待状の他に、もう一枚、手紙が添えられていることに気付いた。

何かしら……と、おもむろにそれを広げると内容に目を通して――

「!」

伯爵夫人は驚愕のあまり、思いきり大きく目を見開いた。



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