伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「こんなに美しい満月の夜はめったにない。俺も息抜きがしたくて、ここに出てきたんだ。良かったら、散歩に付き合ってくれないかな?」

「……」

そう誘われて、断れる女性がいるのだろうか。

でも、自分なんかでいいのか、という疑問も浮かぶ。

クレアが戸惑っていると、「大丈夫だから、手を重ねて」と優しく促された。

言われる通り、ライルの大きな手のひらに、ゆっくり自分の手を載せると、やんわりと握り返され、そのままエスコートされる。

彼の手が熱いのか、それとも自分の体温なのか分からなくなるほど、緊張してしまう。そんなクレアを気遣うように、彼女の歩調にライルが合わせてくれて、二人で庭園を歩く。

時々言葉を交わし、ライルが微笑んでくれる。

クレアにとって、今までで一番忘れられない夢のような夜が、穏やかに過ぎていった。


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