伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「すごく……素敵……」

その華やかさに、クレアの目が釘付けになる。

「はい。旦那様がクレア様のためにお選びになったものでございます」

「……ライル様が……」

「他にもクローゼットに何着かございます。それでもまだ足りませんので、クレア様がいらっしゃってから、好みなどをお聞きして、新しくお作りすることになっていると聞いております」

「……そう……なんですか……」

ライルは本気でクレアを婚約者として迎える準備をしていてくれていたということか。この部屋も彼女のために、用意してくれていた。

それなのに自分から断ってしまって、ライルの気分を害していないか、今頃になって心配になってきた。

「まもなく晩餐のお時間です。お召し替えのお手伝いをさせて頂きます」と、ジュディが言う。

ああ、そうか。いつまでも質素な服装のままではいられない。

着てきた外出着を脱いで、ジュディにコルセットとドレスを着付けてもらう。慣れていないのを察してくれたのか、コルセットの紐をそんなにきつく締められなかったのが幸いだった。

その後、ドレッサーの前に座ると、ジュディがクレアの三つ編みをしゅるしゅるとほどく。

解放されたセピア色の髪が、豊かに波打って腰の辺りまで届く。ジュディの手によってブラシがかけられ、食事の時に邪魔にならないように、両の顔回りに落ちてくる髪の束をすくって後頭部で結い、残りは背中に流れるように整えてくれた。

最後に、ジュディがクレアの唇にうっすらと紅を引く。

みるみる変わっていく鏡の中の自分の姿に、クレアは何だか夢でも見ているような気分になった。


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