雀の恩返し

帰り際に係長と市場調査の話をしていたら遅くなり
会社を出たのが8時半を過ぎていた。
電車に乗りながらも仕事の事を考え
無意識に自分のマンションの前まで来て

三階の自分の部屋の電気が点いているのを確認して青ざめる。

スズメっ!
すっかり忘れていた。

まだ居るの?
帰ってないの?

朝のように階段をまた突っ走り
鍵を開けて部屋に入ると

「おかえりなさい。ご主人様」

エプロン姿でお出迎え。

「君はまだいたの?」
半泣きの声で僕が言うと

「当たり前じゃないですか。ご飯できてますよ。今日も一日お疲れ様でした」
そう言って
笑顔で僕のスーツの上着を脱がそうとしたので、僕は慌ててカバンを抱えて寝室に飛び込んだ。

どうしよう。
どうやって追い出そう。

「あのさぁ」
着替えて勢いよく居間に行くと

美味しそうな食事がテーブルに広がっていた。

炊き立てのご飯。
いつもレンジでチンするご飯だから、炊飯器は久し振り。
肉じゃが
豆腐と揚げの味噌汁。
キャベツの浅漬け
マカロニサラダ
出汁巻玉子
カツオのたたき。

シンプルである和食のごちそう。

「沢山食べて下さい」
ドヤ顔でしゃもじを持ってスズメが言う。

怒るのは
食べてからにしよう。

< 16 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop