この想いが届くまで

04 最悪から最幸の夜へ3

 少し歩いて未央はやけに人通りが多いことに気づく。どこへ向かっているのだろうと思うのと同時にはっとあることを思い出した。
「あの、さっきはありがとうございました。お礼言えていなかったので」
「さっき? あぁ、たまたまだよ。それより今日もまた結局、偶然居合わせるんだな」
「また君か、って思いましたか?」
「思った」
 互いに自然な笑みがもれる。未央の緊張も少しずつ解れてきていた。
「どこ向かってるんですか?」
「もう見えてるよ」
「?」
 人がいつもより多いこともあって何をさしているのかすぐには分からなくて背伸びをしても未央は見えなかった。逆に少しかがむと人の隙間からぼんやりとした温かい灯りがともるのが見えた。そして今自分が歩く場所から想像がついた。
「もしかして、桜ですか?」
「うん」
 目的の場所までくると見事に満開の桜が幻想的にライトアップされていて、桜の名所として有名なこの場所は多くの人で賑わっていた。
 人の通りからはずれ、少し離れた場所で立ち止まって桜を見上げる。
「すごい……満開ですね。朝はまだ蕾が多くて、週末頃になるかなって思ってたけど……」
「そう。俺もそう思ってた。でもさっきこの辺りを通ったらとても綺麗に咲いていて未央に見せたいって思った。今日は無理かなって思っていたけどさっき会えたから。あんな形だったけど」
 西崎はそう言って小さく笑みを浮かべると再び桜を見上げた。そんな西崎の横顔を見上げながら未央は伝えたい思いが心の中で溢れて止まらなくなるのを感じた。
 そんな風に思ってもらえて私嬉しいです。綺麗な桜を一緒に見ることができて嬉しい。今、一緒にいられることが嬉しい。
 未央の視線を感じて西崎は「どうした?」と視線を桜から未央に移して向き直る。
「桜、好きなんですか?」
「いや別に」
「え……」
「桜というより、綺麗な景色や風景を見るのが好きだ」
「……そうですか」
「……?」
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