この想いが届くまで
 翌朝未央が出社すると「未央ちゃん大丈夫だった?」と彩佳が浮かない表情で駆け寄ってきて、席につかずに二人で話せる部署内での打ち合わせに使う小部屋に移動した。
「昨日はごめんね。私が先に帰っちゃったせいで。しかも未央ちゃんに伝えてなかったミス。本当にごめん!」
「いえ、彩佳さんは悪くないです。それにこの通り私も何もなく無事だったので」
 笑顔を見せればほっとしたように大きく息をついた。
「何もされてないならよかったけど……強烈だったでしょ」
「それは……はい、かなり」
「実際仕事のやり取りをするのは別の人たちで本当にみなさんよくしてくれて……付き合いが長い分色々分かってくれてるし。でもちょっとしたミスや疎通がうまくいかなかったりすると気まぐれに出てくるのよあの男(ひと)。なんとかあの人だけはずしてもらえないか上と何度も相談してたんだけど、向こうはこちらからの訴えにしらばっくれるばかりで言った言わないで苦戦してたみたいで……また来ちゃったか。とりあえず、思い出したくないと思うけど昨日の話聞かせてもらってもいいかな」
 未央は百瀬に言われた通り昨日のことをこと細かに報告した。
「最後はもうどうにもならなくて外に助けを求めに出ようかと思っていたら土屋さんが立ち上がって……」
 未央はふと、報告とはどこまでのことだろうと思った。でもここで終わることはできないと思い続ける。
「そしたら突然、社長と秘書の方だと思うんですけど二人が入ってきて……」
「えぇ!?」
「あちらが部屋を間違えたっぽいんですけど……こちらに不備があったのか……そういえばよく分からないんですけど。それで土屋さんのこと知っていたみたいで」
「知ってたって……社長が相手の顔見てわかるのかな……。 あ……それか会社名聞いてわかったとか……いやでも、ということはN社の話社長まであがってたってこと!?」
「えぇっと……」
 未央は思う。昨日あの場で社長が土屋の会社名を知るような場面はなかったし、今思えば最初から分かって入ってきたような気がしてきた。
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