この想いが届くまで
「ご、ごめんなさい。私あまりあの時細かいこと考える余裕なくて……今思うと確かに不思議だったな、と……」
「ううん、こっちこそごめん! うん、そうだよね。続けて?」
「社長、広報(うち)が土屋さんに困ってるの知っていたみたいで対応してくださって事なきをえました。昨日の土屋さんの横暴な態度や言動も映像に残ってるみたいですし……私すっかりカメラの存在忘れてましたけど」
 彩佳はぽかんと口をあけて未央の話を聞き終えるとはっと何かを思い出したようだ。
「そうそう。何か月か前にカメラの設置について突然一部社内規則変更の知らせがあったよね。最初えって思ったけど、常に誰かが見ているものではなく防犯の目的でしか使用しないってちゃんと社員向けに説明があってほっとして……だから次に土屋さんが来たときも私が対応して証拠を残してやろうと……!」
「もしかしたら他の部署でも同じような相談が上がっていたのかもしれないですよね」
「あそこまでの人はいないと思うよぉ? ま、でも。初対面の男性と二人きりにならないといけないこともあるし安心だよね」
 目を合わせて微笑み合ってから続けて彩佳がまた一つ思い出したように続ける。
「前の二代目の社長はさ、すごく社員との距離が近くてよくお見かけしたし話しをしたこともあるんだけど、社員や社外へのアピールばかりで……よくメディア取材受けてたし。いつも綺麗な女性連れてそれはまぁ華やかな人で経営や社内の状況は役員に丸投げだったみたい。でも今の社長になってから私たちみたいな一般社員でも上に話が通りやすい制度作ってくれたり、企画部に同期がいるんだけど上司が新しいことにどんどん挑戦させてくれるようになったって張り切ってた!」
「へぇ……!」
「今回の件も土屋さんのことはきっと耳に入ってたのよ! ねぇ、社長どんな感じの方だった?」
「素敵な方でしたよ」
「いいなぁ! 私もお会いしてみたかった……って、ごめん、朝一で室長に呼ばれてるの。昨日のことかも。行ってくるね! あ、お昼一緒に食べよう! 昨日のお礼とお詫びにランチごちそうする!」
 返事をする間もなく彩佳は足早に部屋を出て行ってしまった。
 素敵な方でしたよ、そう平然と言えた自分を褒めたい。もう少し話が長引いたらきっと隠し切れなかった。未央は真っ赤に染まった手を両手で覆ったまましばらく部屋を出ることができなかった。
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