同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


私たちはレストランを出ると、エスカレーターで子供服やベビー用品売り場のある六階に移動した。

そこで赤ちゃん用のおもちゃやベビー服を見ながらゆっくり歩いて、二十分ほど経過したころ。

なにやらバッグをごそごそ探る理央が、顔色を悪くしている。


「どうしたの?」

「……お金がない」

「お金? 少しなら、立て替えようか?」

「違うの。企画課の皆から預かったお金が入ってる封筒……」


私たちは一旦売り場を離れ、通路わきに設置されたベンチに移動した。

そこで理央のバッグをひっくり返してみたけれど、封筒は出てこない。


「確かに持ってきたの?」

「……と、思うんだけど……でも、ちょっと待って……」


両手でこめかみを抑えながら、記憶を思い返しているらしい理央。

私はとりあえず、バッグの中身をもとに戻しながら彼女が思い出すのを待つ。


「あ」


しばらくして、はっとしたように理央が声を上げる。


「思い出した?」

「うん、たぶん……比留川くんかも」

「比留川くん……?」


予想外の名前が飛び出して、ドキッと心臓が跳ねた。

彼も理央と同じ企画課だから、名前が出ても不思議はないけど……。

私が動揺しているなんて知りもしない理央は、いつの間にかスマホを耳に当てている。


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