同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
ほんのり予感していた恋が芽を出すまで、あとわずかな気がした。
傷つくかもしれないとわかっているのに、じゃあ彼のことは潔く諦めよう、と思えないところまで来てしまっている。
……だったら、いっそ芽吹かせてみてもいい?
まだ、確かな気持ちではないけれど……私、比留川くんの大切な“あの子”を超えることに挑戦したい。
いつか私だけを見てくれるように……どうにかしてあなたの心の隙間に滑り込ませて。
ゆっくりと頭を起こした私は、腕時計を見る。
午前一時半……終電は、もうない。
すうっと息を吸い込み、私は勇気を振り絞る。
「比留川くん……今夜、泊めてくれる?」
こんな大胆発言をするのは、人生で初めてだ。
でも……新しい恋を求めているのは、私だって同じ。
そして、相手はあなたがいいって、本能がそう言っている気がするの。
私の言葉に大きく目を見開き驚いた様子の比留川くん。
彼はしばらくじっと私の瞳を見つめると、低い声で告げた。
「わかった。……行こう」
私たちは呆気にとられる玄太さんを残し、お金を置いて店をあとにした。
とてつもなく、傷つくかもしれない。
私は所詮ほかの誰かの“代わり”だって思い知らされるかもしれない。
それでも……あなたの心に、もっと踏み込みたいの。
月明かりの下、比留川くんに手を引かれて歩きながら、私はそんなことを思っていた。