同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


ほんのり予感していた恋が芽を出すまで、あとわずかな気がした。

傷つくかもしれないとわかっているのに、じゃあ彼のことは潔く諦めよう、と思えないところまで来てしまっている。

……だったら、いっそ芽吹かせてみてもいい?

まだ、確かな気持ちではないけれど……私、比留川くんの大切な“あの子”を超えることに挑戦したい。

いつか私だけを見てくれるように……どうにかしてあなたの心の隙間に滑り込ませて。


ゆっくりと頭を起こした私は、腕時計を見る。

午前一時半……終電は、もうない。

すうっと息を吸い込み、私は勇気を振り絞る。



「比留川くん……今夜、泊めてくれる?」



こんな大胆発言をするのは、人生で初めてだ。

でも……新しい恋を求めているのは、私だって同じ。

そして、相手はあなたがいいって、本能がそう言っている気がするの。

私の言葉に大きく目を見開き驚いた様子の比留川くん。

彼はしばらくじっと私の瞳を見つめると、低い声で告げた。


「わかった。……行こう」


私たちは呆気にとられる玄太さんを残し、お金を置いて店をあとにした。


とてつもなく、傷つくかもしれない。

私は所詮ほかの誰かの“代わり”だって思い知らされるかもしれない。

それでも……あなたの心に、もっと踏み込みたいの。


月明かりの下、比留川くんに手を引かれて歩きながら、私はそんなことを思っていた。

< 33 / 236 >

この作品をシェア

pagetop