同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
社長がお気に入りなのだというイタリアンレストランは、会社から徒歩十分弱の場所にあった。
大通りを外れた静かな路地にひっそりと建つビルの一階。
注意しなければ見落としそうなほど小さな看板があるだけで、一見お店とはわかりづらい。
「……か、からかわれているだけだったらどうしましょう」
店の前まで来て怖気づいてしまった八重ちゃんが、眉をハの字にして弱音を吐く。
……やっぱり、眼鏡を取っただけで完全に性格が変わるわけないか。
というか、なにしろ相手はイケメン社長だ。尻込みしてしまう気持ちはわからないでもない。
「まさか。社長ともあろう人が、そんな社員の信用を失うようなことしないよ」
「私もそう思いたいですけど……うう、胃が痛くなってきました」
私の励ましにも顔色を悪くするばかりの八重ちゃんを連れて、静かに店の扉を開ける。
カウンター席のほかに、半個室となっているテーブル席がいくつかあるだけの小さなお店だけれど、静かで落ち着いた雰囲気の中、ゆっくりとくつろげそう。
「いらっしゃいませ」
すぐに応対してくれた女性店員に“霞”の名を伝えると、店の一番奥にあるひとつのテーブル席まで案内された。
そこにはすでに社長の姿があり、向かい側にはもうひとり、知らない男性が。
社長の方も連れがあるなんて聞いてなかったけど、誰なんだろう。どこかで見たことがあるような気もするけど……。
その男性のことが気になるけれど、とりあえずは社長に挨拶だ。