同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


「お疲れ様です、社長。お待たせしてすみません。私……」

「ああ、お疲れさま。きみは相談室の難波さんだよね? 会議でテーブルに頭ぶつけてた」


霞社長ににっこりと上品に微笑まれて、私は「そうです……」と苦笑するしかない。

変なところで名前を覚えられてしまった……。あれは自分の不注意だから、自業自得なんだけど、悲しい。

でも、そんな自分の失態なんかより、今日の主役を紹介しなければ。


「あ、あの、そしてこちらが同じ相談室の、近藤です」


そう言って振り返るけれど、八重ちゃんは私の背中に隠れたまま出てこない。


「……ちょっと八重ちゃん、人見知りの子供じゃないんだから!」

「だ、だって、先輩、無理です……いきなり、こんな近くで……」


どうやら本人を前にしてさらに臆病になってしまったらしい。

社長待ってるってば!と内心焦っていると、優しい声が掛けられる。


「近藤さん? 吉沢から聞いてるよ。人づきあいが苦手な自分を変えたくて相談室に入った、真面目ないい子がいるって。どうか緊張しないで、美味しいものを一緒に食べよう?」


社長本人にそこまで言われて、隠れていた八重ちゃんがおそるおそる私の背中から顔を出す。

おお、吉沢部長、ナイスアシスト!


「あ、あの……私……」


それでもまだおどおどする彼女に呆れることなく、社長はスッと立ち上がって、彼女に手を差し出した。

その姿はさながら王子様で、アラフォーだなんて思えない。


「おいで、僕の隣に」

「は、はい……」


なんてキザなんだ……!と私なら照れてしまうけど、魔法にかけられたように社長の手を取った八重ちゃんの目はすっかりハートマーク。

よかった……。とりあえずはうまくいきそう、かな?


< 58 / 236 >

この作品をシェア

pagetop