同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「……び、びっくりした。八重ちゃん、どうかした?」
「いえ……やっぱり、みちる先輩は私の憧れだな、と」
きらりと眼鏡を光らせてそんなことを言ってくれるのは、近藤八重(こんどうやえ)ちゃん。まだ入社二年目の若い後輩。
学生時代から引っ込み思案だったらしく、コミュニケーション能力は決して高いとは言えない。
しかしそんな自分を変えたいと、彼女はこのお客様相談室に入ることを自ら志願したらしい。
言葉こそ苦手ではあるけれど、人一倍真面目で根性があるから、きっと経験さえ積めば大きな戦力になってくれるはず。
「あはは、やだなー。照れるじゃない。ありがとう。でも、私もここに来たばかりの頃はまだこんな風に肝据わってなかったから、経験さえ積めば八重ちゃんだってこうなれるよ」
「そうですか……でも、みちる先輩は仕事だけじゃなくて、綺麗だしおしゃれだしメイクも上手いし……いかにも東京のOLさんっていう感じで、羨ましくて」
純真な瞳に見つめられてそんなことを言われるのは光栄だけれど、内心ギクッとしていた。
なにせ、本当は東京どころか関東の人間ですらないのだ。それでも八重ちゃんが憧れてくれるのはきっと、その“いかにも東京のOLさんっていう感じ”を私自身が目指し、日々努力しているからだろう。
田舎くさい自分を、どうにかして変えたい。そして、あの苦い思い出を、乗り越えたい――って。
「八重ちゃんは、コンタクトにしないの?」
またしても過去のことを思い出しそうになり、気持ちを切り替えるように、明るく聞いてみる。
「してみたいですけど……漫画みたいに、眼鏡取ったからって美少女になるわけでもないし」
カクンと首をうなだれる八重ちゃん。
うーん、私は、磨けば光ると思うんだけどなぁ。