同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
そうして仕事に自信が持てるようになってきた頃から、不思議とお客様の態度は変わった。
電話を掛けてきた直後は怒っていても、話を聞くうちに声や話し方が柔らかくなっていくのだ。
幸い、今回のお客様も、徐々に怒りは鎮まってきたみたい。
『……別に、そこまでしなくていいわ。それにしても、コーヒーカップの大きさまで調査してるだなんて、感心するわ。私の使っていたカップはどうやら大きすぎたみたいね。これからカップを変えて飲み直してみるわ。開けたときに香りがとてもよかったから、楽しみにしているの』
よかった……。こちらの誠意が伝わっただけでなく、商品をそんな風に言ってもらえると、思わず表情もほころぶ。
「ありがとうございます。また、何かお気づきの点がありましたら、どうぞ遠慮なく仰ってください。お電話でも、当社ウェブサイトのメールフォームからでも構いませんので」
『ええ、ありがとう。それじゃ、失礼します」
「このたびは貴重なご意見、ありがとうございました。失礼いたします」
ヘッドセットを一旦外して、ふうと息をつく。
目の前にあるパソコンの画面には、メモ代わりに入力したさっきの電話の内容が。
「……忘れないうちにまとめ直さなきゃ」
またいつ電話がかかってくるかわからないので、ヘッドセットを装着し直し、キーボードをカタカタと叩く。
そしてひと通り入力が終わった頃、至近距離から注がれる痛いくらいの視線に気が付いた。
振り向くと、ビン底のような分厚い眼鏡をかけ、日本人形のように切りそろえられた黒髪おかっぱ頭の後輩がじっと私を見つめている。