ただあの子になりたくて


鳥肌が立つ。

電気は消えていた。

物音一つしなかった。

今も何も聞こえない。

微かに月明かりの差す階段にも、狭い廊下にも、誰の気配もない。

奇妙なまでに静まり返っている。

私の心臓だけが派手に脈を打つ。

娘があんな状態だというのに、私の親は呑気に眠りについたのだろうか。

静かに腹の奥底が煮え立つ。

ほとんど怖さはなかった。

私は息を押し殺し、そのまま久々の床を踏みしめた。


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