ただあの子になりたくて
靴下まで脱ぎ捨てた濡れた足が、廊下で音を立てそうで爪先が震えそうになる。
少しの息遣いすら聞き落とさないよう、耳をこれでもかと研ぎ澄ます。
全部の五感を最大に使う。
でも、たった3歩だ。
私は、氷のように冷たい足を、もうどちらが冷えているかもわからない床へ完全に張り付けた。
ちょうど人一人が通れるほどの、開かれたリビングの入り口。
ドアの枠のふちにやんわりと手をつく。
作られた明かりが一つもないリビング。
四脚の椅子がそろった何もないダイニングテーブルに、繊細なレースのカーテンに、クリーム色のはずの壁紙に、曇ってくびれた床に、青みがかった薄明かりが広がっている。
夜の部屋なんて真っ暗で怖くて、何も見えないものと思っていた。