ただあの子になりたくて
私はようやく下駄箱の前に立つと、電池が切れたみたいに腕をついて寄りかかった。
周りにはまばらに、じゃあねという声が飛び交っていたけれど、私は動じなかった。
息を吸っても吸っても、胸が苦しい。
脇腹が痛くて、思わず息が浅くなる。
あまりの苦しさに私は、胸のリボンをきつくわしづかむ。
「あっ、なずな?」
はっと顔を上げる私。
「椿と一緒じゃねぇのか? あと、蒼介のやつも」
反射的に振り返った私の前には、ワックスで整えた短い髪を指先で弄んでいる男子がいた。
他の男子よりボタンが一つ余計にあいたチャラい胸元も、雲より軽そうなその声も、全部が彼だと物語る。
「なんだ、拓斗か……」