ただあの子になりたくて


私はようやく下駄箱の前に立つと、電池が切れたみたいに腕をついて寄りかかった。

周りにはまばらに、じゃあねという声が飛び交っていたけれど、私は動じなかった。

息を吸っても吸っても、胸が苦しい。

脇腹が痛くて、思わず息が浅くなる。

あまりの苦しさに私は、胸のリボンをきつくわしづかむ。

「あっ、なずな?」

はっと顔を上げる私。

「椿と一緒じゃねぇのか? あと、蒼介のやつも」

反射的に振り返った私の前には、ワックスで整えた短い髪を指先で弄んでいる男子がいた。

他の男子よりボタンが一つ余計にあいたチャラい胸元も、雲より軽そうなその声も、全部が彼だと物語る。

「なんだ、拓斗か……」


< 8 / 318 >

この作品をシェア

pagetop