ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
谷口は私がわからなかったんじゃないのか。
存在が地味すぎて、来てないと思ったとか。


(それならメールしてくるか)


何もこないというのはどういうことだろう。
来てみたけど、スルーでもしたって言うの!?



(……あり得る)


私だと思ったけど興味が無くなってしまった…とか。
派手めな格好でバッチリメイクもしてないから並んで歩けないと思った…とか。


(そうよね。イケメンだもん。谷口さんは)


ヤンキーみたいなアロハシャツを着ててもそれなりに映える。
ビジネスマンみたいにスーツを着こなしてた時はそれ以上にカッコよく見えた。



(私なんて……)


派手なワンピを着てても滑稽。
ジミ目な浴衣を着てたら存在感すらも無くなってしまう。

それが自分だって知ってる。
でも、声くらいかけてくれたっていいじゃない。


考え込んでたら目線はいつの間にか下を向いてた。
今日は家を出てからずっと、前ばかりを見ていたのに。



「ずっ…」


目頭が潤んできたせいで鼻が詰まり始めた。


「バカもう。泣いても仕方ないんだって……」



谷口は来ないのかもしれない。
私はやっぱり失恋したってことか。



(……どうする?……帰る?)


地面に付いた点のようなシミを見て思った。

零れ落ちたのは涙なんかじゃない。



(汗!暑いから汗が落ちたの!)


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