ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
やっぱり決めてた通り水天宮だけはお参りして帰ろう。
今夜こそ大枚叩いて、ドラマチックな恋ができるよう祈願するんだ。


(この際、ドラマチックでなくてもいいから恋したい!)


だけど、どこの誰ともわからないような人はイヤ。
軽薄で何人とも同時に付き合える男もイヤ。

三枚目でもいいから私だけを好きでいてくれる人がいい。
平凡でもいいから誰かと恋に落ちたい。



(……行こう)


コロン…と下駄の先を動かした。
浴衣の裾から見え隠れする下駄の鼻緒にきゅん…と胸が苦しくなる。


王子様はシンデレラにガラスの靴を届けてくれた。
谷口も同じように私に下駄を返しに来てくれた。

幸せになれそうな気がした。
ヤンキーでもいいから谷口のことを好きになりたいって思った。


(魔法が解ければこんなもん……)


光りもしないホタルに戻っただけ。
一人淋しく、祭りを楽しむだけ。




「ひっ……」


泣き声なんて出すな。
惨めになるだけだ。



カラン。
コロン…。


なんだかお化け屋敷の幽霊にでもなった気分。
周囲が真っ暗だったら「恨んでやる」とでも言ってやろうか。




「ホタル」


ほら、幻聴まで聞こえだしたし。



「ホタルだろ」


いい加減にしてよ。しつこい。



「おいってば!」


グイッと腕を引っ張る。



「何よっ!うるさい!」


感傷に浸らせといて!


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