ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
見るからに弱々しそうな魚を指差す。


「嫌よっ!絶対にこれがいいの!!」


彼氏も恋も思うようにならないんなら、せめて金魚だけは自分が思うものを手に入れたい。


「どうしてコイツにこだわるんだよ」


ポイを作りながらヤンキー男が呟いた。


「祈願みたいなもんなのよ。ほっといて!」


ホントなら神様にお願いするところだった1万円。
素敵な人に出会って、ドラマチックな恋がしてみたい…って祈願するつもりだったのに。


「あんたが金魚を掬えって言ったんでしょう!お金は払ってるんだから文句を言わないで!」


一回200円の金魚すくい。
1万円分なら50回はできる。


(それくらいやれば、きっと掬えるはず!)


掬えたら可愛がって育てるんだ。

直ぐに死んでしまうと言われる夜店の金魚が長生きしたら、きっと自分も幸せになれる!


「ほら、ポイをちょうだい!」


広げた掌を見つめるヤンキー男。

小さく息を吐いて、「わかったよ…」と呟いた。


「俺が悪かった。あんたには金を返すからもう掬うのは止めてくれ」


5千円札を返された。

掌に置かれた現金を見て、ムッとして叫んだ。



「どういうことよ!これ!」


金魚すくいをしていかないかと言ったのはそっちなのに、どうして今更止めさせる!?


「あんた、何もわかってねぇな。さっきから散々営業妨害してんだぞ!」


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