ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「怪しまれてるぞ、健太朗(けんたろう)」


笑いを噛みしめた。


「ふん!俺が何したって言うんだよ」


失礼だな…と言いながら逃げ去る。
私は怯えるような雰囲気で轟さんの後ろに隠れてたけど、いつまでもそうしてる訳にはいかなくて……



「ケイ」


振り向いた人に押し出された。
目の前にいる人達は一斉に私のことを見つめる。


「ここにいる連中、全員ボランティアの仲間。ケイも今日から一員なんだから挨拶くらいしとけ」

「へっ!?」


ちょっと、ちょっと、いつから私が仲間に加わることになったの!?


驚いて彼を振り返れば、涼しそうな笑みを浮かべてる。
全くの逃げ場がない様子に思わず冷や汗が流れた。


ゴクン…と唾を呑んで覚悟した。
たった一言、よろしく…と言えばいいんだ。


「よ…よよ……よろし…しく……」


最初から吃ってしまった。
「お願いします」まで言いたいのに、もう言葉が出てこない。

顔の表面が熱くなる。
絶対に赤くなってる!


(ヤダもう!逃げたしたいっ!)


それでなくてもこの最近、頑張ろうと思えば思うほど上手くいかなかった。
言葉は喉の奥に突っ掛かったままで、話そうとすると息しか出ない。

誰にも心配かけたくないからなんとか頑張って仕事へは行った。
でも、休みの日までこんな緊張感じる場面に出くわすなんてーー。


(もうヤダ!絶対に帰るっ!!)


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