ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「結局、お母さんの為を思って養子縁組を承諾したの。だけど、折角入った高校も変わることになってしまって」


迷ってたのはそれで…か。
夢があったから悩んでたんだ…。


「ボランティアの責任者を始めたのは腹いせみたいなもんもあるのよ。お祭りも確かに好きだとは思うけど、会社でも家庭でも『轟 大輔』でいることがイヤなの。だから、ここでは谷口姓を名乗ってる」


寿神社の日に「谷口」だと言ったのはそれで。
責任者の彼にとって、それは当たり前のことだったんだ。


「貴女にそんな大ちゃんの彼女が務まるの?」


サングラスを外した純香さんが聞いた。


「望まない会社の重役をして、やりたくもない仕事に就かされてる人の気持ちが分かる?家庭でも息が吐けなくて、逃げたがってる人の気持ちが理解してやれる?」


真剣な顔で問いかけられた。
あんなに堂々してる彼の心理が、そんなに弱いとは思いたくもないけど……



「…………」


あれこれ考えるとすぐには答えれなかった。
重役の責任の重さも仕事の大変さも私にはわからないし、本来なら寛げるはずの家庭ですら逃げたい場所だということがわからない。

私は何かあったら家に帰りたいと思う方。
血の繋がってる人達のいる場所が、自分の逃げ場の様な気がする。


なのに、轟さんにはその場所がない……?
だったら彼は、どこで寛げばいいの……。


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