ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
イラッとして聞いてしまった。
純香さんは背中を壁から離し、私の方を向いた。


明るい髪の色をした人の唇がニヤリと笑った。
左耳に髪の毛を引っ掛け、さらりと軽い感じで話した。


「…臨床心理士よ。大ちゃんは大学で心理学を勉強したかったの」


そう言った後、私の方へ近づいてきた。
こっちは意外な言葉に驚いて声も出せずに聞いた。


「大ちゃんはアル中とか依存症で苦しむ人達の心理を勉強したかったの。借金作って逃げたお父さんを見つけ出して、更生させたいと考えてたんだと思う」


純香さんはそう言うと息を吸い込んで吐き出した。


「……大変な家庭で育ったけど大ちゃんにとっては、たった一人のお父さんだからね」


スーツの胸ポケットにしまい込まれてた写真を思い出した。
家族三人で写ってるものには、あの頃に帰りたいという願いが込められてたんだろうか。


「中学時代の大ちゃんはヤンキーみたいだった。服装や髪型で目を付けられることも多かったけど、成績が優秀だから先生たちは何も言えなかった。

勉強して進学高へ進んだのに轟社長の養子になることを勧められたの。息子になるってことは、その会社に属するってことでしょ?だから、本当はなりたくなかった」


養子になれるような自分ではないと言ってた。
お父さんのことで劣等感も抱えてたし、オフィスのイメージダウンになることも恐れてた。


< 177 / 209 >

この作品をシェア

pagetop