ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「何が言いたいんだ」


待っててくれてたのか。


「いえ、あの、服に潮がかぶると困るな…と思って」


借り物だから…とは言えない。
言い訳をあれこれと考えてると、谷口の方から「なんだ」と話し始めた。


「被りそうなら庇ってやるよ」


どういう意味かと思って顔を眺めた。
ニヤッと笑う顔は、暗い場所で見る時よりも可愛いようにも思える。


「どどど、どういう意味」


質問に答えてもらう間もなくイルカショーが始まった。


館内に響くトレーナーの声に拍手が湧く。

大きくてツルツルした身体のイルカが三体、丸く尖ったクチバシから甲高い声を発した。

目が丸くて潤んだように見える。

口から覗く歯がキザキザで、舌のピンクは人間みたいな感じだ。


『現在、このうちの二頭は妊娠中でーす!』


紹介されたイルカは確かに胴体が膨らんでる。


『従って大きなジャンプはできませーん!』


だったらどんなことをするのかと思うと、ボールを使ったバレーボールみたいなことを始めた。



(あんなに動いて大丈夫なのかな)


見てるこっちがハラハラする。
人間と同じ哺乳類だから、出産までには適度な運動も必要なのかもしれないけど。


「腹デカくても働かされるんだな」


谷口の声に「うん…」と呟く。


「金の為とは言え厳しいな」


憐れんでる?

じぃーとイルカを見守る谷口を振り返った。
その目がやけに真剣そうな気がする。


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