ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
ただ、どこへ行くにも人目が気になって仕方なかった。
真綾の貸してくれたワンピースは、やはり私には似合わない。


「疲れてもないのにその顔か?」


いつの間にか前に立ってる男が顔を覗き込んでる。


「……っ!」


ビクついて背筋が伸びた。
ギクリとした瞬間、やっぱりどこかで見たことある気がする。



(何だろ。デジャブ?)


夏祭りの夜には気づかなかったけど、この髪の垂れた感じが誰かと似てる気がする。



「マジマジ見んなよ」


それはこっちのセリフだ。


「谷口さんこそ見過ぎ!人のことガン見しないで!」


顔を背けようと手を伸ばした。
すると、彼は私の指先を掴んで……


「派手なネイルだなぁ」


赤のマーブルカラーで塗った指先を眺めて言う。


「赤と黒と白。まるで金魚みたいだ」


ニヤつく顔が近過ぎて戸惑った。
ぎゅっと力を入れて手を引き抜き、先へと向いて歩き出す。


「いいでしょ。別に何でも!」



今日の私はいつもの自分じゃないんだ。
相手が言うことを一々間に受けたりなんかしない。



「なぁ、ホタル」

「何よ」


振り返らずに答えた。
谷口は私の横を歩きながら、「水天宮に行ってみないか?」と言った。



「えっ?」


思わず彼を振り返った。

ニヤついてる彼の唇の端が、キュッと上に持ち上がってる。


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