ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「ここから車で10分で着くってそこの看板に書いてる。どうだ?」


「い……行くっ!」


元は言えば先週、寿神社をお参りして帰ろうと思ってたところを呼び止められた。

今日こそは大枚叩いて、絶対に素敵な恋ができるよう祈願しよう。



(あっ!でも待って)


よくよく考えたら今日はもう残りが少ない。
谷口は現金を持たないと言うし、行ってもお賽銭は私持ちだ。


(だからって、今更行かないとも言いにくいし…)


気持ちだけ払って願うか。
大枚叩いて祈願するのは、大晦日でもできるんだし。



少しだけ気分が上昇した。
地面ばかり見ていた目線がやっと辺りを見始める。



(……あんな所に観覧車がある)


水族館からの遊歩道沿いに作られたミニ遊園地みたいな場所。



(へぇー、知らなかった)


そう言えば、海岸線沿いに土地開発が進んでるという話だった。


(…私、子供の頃メリーゴーランドに乗るのが好きだったっけ)


キラキラした馬や馬車がグルグル回ってるのを見るのが楽しかった。
目が回るけど、そのフラフラ感が面白くて。


(あそこにもあるのかな)


そんなことを思いながら水天宮へと向かい、案の定、谷口の分までお賽銭を出した。



「悪いな。次は全部俺が払う」

「いいよ。別に」


次なんてどうせ無いから。
あんたと出かけるのはこれが最後だから。



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