ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
谷口とは次にいつ会うって約束はしてなかった。
私はいつでも暇だけど、あの人は何だか忙しそうだったから。


『また時間が取れたら連絡する』


メールでそれを言ってきた時、忙しいんだなって判断した。
もしかしたら郁弥と同じように掛け持ちで付き合ってる女性でもいるのかなと思ったけど……。



(それはないか)


信じてるわけじゃない。
あんな風貌だし、人のことを勝手に彼女にしたつもりでいるし。



(カレシなんかじゃないもん)


こっぴどくフラれたせいか、カンタンに男を信用する気にもなれない。


ただ、胸の奥に引っ掛かってる人。

私にとって谷口は、そんな存在になってた。



誰とも会わない週末が過ぎて月曜日がやってきた。

月が変わったばかりの1日の朝は、社員全員が1階のロビーに集められ、全体での朝令みたいなのが行われる。



「かったるいわね〜」


更衣室で制服に着替えた聖とロビーへ向かう。
部署ごとに列を並ばなきゃいけなくて、私は商品管理部の列の最後尾に並んだ。


会長の軽い挨拶があった後で、社長つまり真綾のご主人様からの訓示がある。

「夏の売り上げは上々です。下半期も頑張っていきましょう」…って内容だった。


「次に人事異動についてですが、副社長より公示してもらいます」


『副社長』って言葉に耳がピクついた。

床ばかり見てた目線を上げてみたけど、見えるのは人の背中ばかりで。


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