ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
午後6時を回り、終業時間が迫った。
午後からは少し気持ちも落ち着いてきて、幾らか仕事が捗った。
何とか気持ちが乱れずに終えられそうで、(良かった…)と息を吐いた。

更衣室で服を着替えて外へ出ると、表はまだ昼間のように明るくて。
薄青い空を見てたら、あの観覧車に急に乗りたくなった。


夕暮れ時の町を観覧車の上から眺めてみたいと思う。

ヤンキーでもいいから、谷口と一緒に。





(……副社長なの?)


オフィスビルの最上階を見つめて問いかける。


出目金をどんぶりで飼ってる貴方は、私の知ってる人ですか?


それとも、手の届かないホンモノの王子様?



(会いたい。怖いけど、谷口に……)



バッグの中からスマホを取り出した。

オフィスの最上階を見つめた後、思いきってメールを送った。



『近いうちに会えない?』


ドキドキながら震える指で送信する。

そのまま暫く待ってたら短い着信音が流れてきた。



『土曜日の午後なら時間取れる。連れて行きたいところがあるから2時に最寄駅で』


駅名と場所が記されてた。
それをゴクッ…と喉を鳴らして見つめる。



『了解!じゃ土曜日にね!』



また仮装して行こう。
そのままの格好で、谷口の仕事について聞こう。



(……どうか、副社長なんかじゃありませんように)


目を伏せて地面を見た。

私はこれからも下ばかりを見て歩くんだろうか。

それとも、真っ直ぐ前を見ていける……?




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