きみへのメロディー



声がして後ろを振り向くと
背が高く
黒髪でメガネをかけた
甚平姿の男性が微笑んでいた。



「…こ、小林さんっ!!」



桃がそう言いながら驚いて
動揺したように
その人と僕を交互に見ていた。



「…桃の知り合い?」



「う、うん。同じ職場でお世話になってる小林さん。…あっ、小林さん!こちら私の幼なじみの重人ですっ!」



「あぁ〜、君が噂の…。はじめまして、小林と言います。よろしくね、重人くん。」



優しく微笑みながら
そっと右手を差し出したその人は
俺とは正反対に
落ち着いた大人の雰囲気があった。



俺はなんだか悔しくて
差し出された右手から目をそらし
軽く会釈だけ返した。



「小林さんも来てたんですねっ。」



「あぁ、地元の友達と毎年来てるんだよ。今はジャンケンで負けたんで、みんなの食料調達。笑」



「ふふっ。小林さんって本当にジャンケン弱いですよね?」



「新川さんそれは言わないでよー。俺、何気に気にしてるんだからね。」



「はははっ。すみません、つい…。笑」



……まるで
そこに俺はいないみたいに
桃とその人は笑いあっていて
俺には見せたことのない顔で
話している桃に
俺は少しだけ腹が立った。



「なぁ、桃!はよ行こうや。花火始まってまうやろ。」



俺はイライラして
桃の手をぐっと引っ張る。



「ちょ、ちょっと!シゲ?どうしたの急にっ。す、すみません、小林さん。せっかくお会いしたのに…。」



「あっ、こっちこそごめんね。デートの邪魔しちゃって。…じゃあ、また会社でね。」



そうやって
またあの人は
桃に向かって優しく微笑んだ。



俺はそんなことをお構いなしに
桃の手を引っ張りながら
ズカズカと歩いた。




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