竜宮城に帰りたい。
誰かのものになるぐらいなら老人にしてでも、
乙姫は浦島を独り占めしたかったのだろうか?
ただの嫉妬心で玉手箱を彼に渡した…?
そんな単純な話ではない気がする。
「えげつないのぉ。
竜宮城でそなん生活しとったなんて、子供に聞かせられんわ。」
「あはは…」
私が愛想笑いをすると、
「よいせ」と言って晴が立ち上がった。
「そろそろいのか。」
「へ?」
「『帰る』っちゅうこと。おとましいのぉ。」
「あ、それなら分かる。面倒臭いってことでしょう?」
「はいはい。」
晴が海とは逆方向に歩き出したので、
私はほっと胸をなでおろした。
小走りで晴の後に続く。
道を知っていたためか、来る時よりも早く浜の方に到着することができた。
そういえば…
ふと時計を見ると、時刻は23:00を回っていた。
「嘘!もうこんな時間!?」
いつの間にこんなに時間が経っていたのだろう。
これじゃあ、まるで本物の竜宮城だ。
しかも、おばあちゃんに叱られるという玉手箱付きの。
「ほんだら、俺もそろそろいのかのぉ」
「そろそろって…」
「行こうで」
晴は何一つ焦る様子はなく、朝乗ってきた自転車に乗っかった。
「ま、待って…」
私も慌てて自転車にまたがり、晴の後に続いて自転車のペダルを蹴った。