愛と音の花束を

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……やる気あるのか、この歯医者。

営業センスを疑ってしまうくらい、椎名歯科医院は辺鄙なところにあった。

市の中心部から離れた、昔ながらの住宅地の端。
狭い生活道路から1本入ると、そこは雑木林。
細い道路を挟んだ向かいは、畑や草地。

夜だから、当然暗い。

そこに唐突に、ホームページに掲載されていた、茶色を基調にしたオシャレな建物が現れた。

駐車場に車を置き、外に出る。

病院側は新しくてモダンなデザインだけど、繋がっている住宅は、昔ながらの立派な平屋日本家屋。実家なのだろう。

病院に入ると、新しさと清潔さが感じられた。内装はベージュが基調。靴箱やカウンターには、小さな花瓶に花が飾られている。照明は柔らかいオレンジ。広いとはいえないスペースだけど、逆にそれが落ち着けて、かつ温かみのある雰囲気の歯医者さんだった。

受付のにこやかなおばさまに、予約していることを告げると、問診票を渡された。

記入しながら、心の準備をする。

『妊娠している、またはその可能性』の項目に、何故か動揺してしまう。
ここ数年そういう行為をしていないため、当然ながら、『いいえ』なのだけど……。
いや、動揺する方がおかしい。うん。落ち着こう。

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