カナリア

セイ

カラス君が通うM大学と、私の通うT大学は近い。大きな通りをはさんで目の前だ。


目の前なだけで、全然関わりが無かったが
サークル等は結構盛んに合同で行われているらしい。


私自身、学業とバイトで忙しいので、サークル情報には疎かった。


(他の大学って緊張するなー。えっと、カフェテラスの前だっけ。)



私は、M大学前に来ていた。


カラス君の同居人……”セイ”と呼ばれる人と会う為だ。




「ごめん、お待たせした?」


「あっ……!」


「……カナさん?かな?」


「あっ!セイ、さん……。えっと……初めまして。」


彼は人懐っこい笑顔を浮かべている。


「カラス君から何も聞いてないんだっけ?」


「はい。とりあえず、自分で会ってくれーって。」


「えー。失礼しちゃうよね。面倒くさがりだから、そういうと思ってたけど。

よし、ここで立ち話もなんだし!お茶しよお茶!」


そういって連れて来られたのは、洒落たカフェだ。入り口のショーケースにたくさんのケーキが並ぶ。


色とりどりのキレイな造形に思わず、感嘆の声が漏れた。セイさんは、私のそんな様子を見て満足したらしかった。


私に気を遣ってくれたのだろうか、と思っていたのだが。


「ケーキ好き?オススメ教えてあげようか?」


「沢山あると迷いますよね。お願いします!」


「わーい!今の時期に美味しいっていう意味ではモンブランなんだけどー……。この店のモンテリマールが美味しいんだよ~。

あ、カジノも好きだな~。タルトタタンも捨てがたいよね~~!」


「えっ!?何!?モン……?カジノ……?」


「ラベンダーの蜂蜜のムースだよ。ピスタチオのスポンジ、ピスタチオのババロア、このピスタチオベースの優しい味がすっごく良くて!」


「ほ、宝石みたいですね。」


どうやら気を遣ったわけではないようだ。


目を輝かせてショーケースを覗き込む彼の目には、なすでにケーキ達しかうつっていない。


「そうなんだよ~~。アーモンドスライス、ヘーゼルナッツ、ドレンチェリー、ピスタチオ!キレイだよね~~!

このナッツの食感が、キレを出しててね~。食べたときに広がる蜂蜜やバニラの香りと一緒になって、ナッツがはじけるんだよ~~。

ムースベースの優しいだけじゃない食感のアクセントになってるしね。」


「は、はあ。えっと……こっちのカジノも、キレイですね……。」


「カジノのルーレットをイメージしたフランスの伝統菓子だよ。ほら、だから渦巻き。

カシスジャムを巻いたスポンジをカットして、ババロアに乗せてあって……。」


「へー…。なるとみたい。」


「言い方!」


「あー…えっと…タルトタタンにしようかな……。」


「うん!気に入るといいな~。」





「改めまして、”セイ”だよ。」


到着したケーキを幸せそうに頬張りながら、《セイ》は再度、自己紹介してくれた。


机の上はケーキだらけだ。先ほど言ったモンなんとかカジノとかも頼んだのだろう。大げさかもしれないが、宝石の様な美しいケーキが並ぶ。


女子にありがちだが、私も例に漏れず甘い物は好きだ。好きだが――ちょっとその量に胸焼けを覚える。


しかし、彼は何のためらいもなく次々と平らげていく!


確かに美味しいのだろうが、その様子は更に美味しそうに見えたので不思議だ。幸せそうに食べる人だなーっと思いながら見ていた。


初めて見た。多分、フードファイターとかだ。この人。


「えっと……。セイさん……。」


「あっ!呼び捨てでいいよ!あと敬語もナシね!同い年だっけ?あれ?俺の方が一個上だっけかな。

気楽にね、カナ。」


「えっと…じゃあ、セイ!」


「うん!ありがとう~!」


「……ねえねえ、本当にカラス君から何も聞いてない?」


セイは真面目な顔をして問いかける。


「うん。聞いてないよ。何かあるの?」


「う~ん……。何かあるっていうより……。……。……カラス君がこんな事するなんて珍しいから、何かあるのかなって勘繰っちゃった。


けど、そっかぁ……!お友達に、かぁ……!きっと、面白いんじゃないかな。よろしくお願いしてもいい?」


「えっと、うん!もちろん!よろしくね。」


「わーい。ありがと~~!」
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