カナリア
「食べるのは、おれの役目じゃないから。」


「役目?」


「生きる為に、分けたんだ。
《おれ》を等分して。

生きる為に、守る為に。

頑張ろうと思えば食べられるんだけど、ね。
本当、頑張らないと食べられない。

飯が食えないなんて。


もし、これから……
おれは、どうしたら、いいんだ。」



ご飯が食べられなくても、大丈夫だよ、何とか方法はあるよ!ほら、点滴とか!

―――と、言いたかったが、多分そういう事ではない。もっと、大きな問題だと思った。


そう、彼らは至って普通に暮らしてはいるが、
“解離性同一障害”……――世間にいったら
“多重人格”と言ったほうが分かり易い。


沢山の人格を宿し、

一つの身体で必死に生きた。


お互いの人生を、犠牲にしながら。


この先を、彼らの人生を、憂えたのだ。



また、文太君が弱っている。

せっかく、森田君とのわだかまりが無くなって、これからだというのに。



人生が、彼らの前に立ちふさがっている。

その絶望感にただただ項垂れるしかない。



諦めないで。

そんな簡単な物ではない。


そして、“選ぶ”という事は
他の人格の人生が途絶えるという事だ。



―――死神。



ふと、誰かに、言われた気がした。

でも、私だって、彼を諦めきれなかった。


「文太君。

今度こそ私はあなたの力になりたいな。」


「……。

今度、なんていわず、支えてもらっているよ。

ありがとう。」


「今回は、なんていうか、そういうのじゃなくて……。

未来について。

みんなで話し合おう。」


「……。」


「少しでも、前向きに……歩めるように。」
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