桜の花びら、舞い降りた

聞いたことはあるけれど、いまいちよくわからない。


「私たちが存在する世界と並行して、別の世界も存在しているってやつ」


私たちの世界以外にも、別の世界が……。
圭吾さんから話を聞いたときに、チラッと浮かんだ考えには違いないけれど。
それは無茶な話だと思い直したばかりだ。


「例えば、右に曲がる道を選択したら、“右へ曲がった自分”という現実を生きることになるけど、それと同時に、自分が選択しなかった現実も存在しているの。左に曲がったり、真っ直ぐに進んだりという選択ね」

「……選択なんて、数限りなくあるよね? その数の分だけ世界が存在するの?」

「それがパラレルワールドの定義なの。つまり私たちは、選択を行うことで次元から次元へ飛び移ってる」


それじゃ例えば、私が昨日、圭吾さんを俊さんのアトリエに連れて行かなかった現実も、どこかの世界では存在しているの?
もっと以前に遡れば、一年前に俊さんのアトリエのある森に行かなかった現実も。


「パラレルワールドは過去も未来も同時に存在しているのかもしれないから、昨日の男の人が過去からやってきたというのも、あり得ない話じゃない」


不思議な感覚に包み込まれた。
なにかのきっかけで、圭吾さんはその次元を飛び越えてしまった。

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