キラワレモノ
百本足の嫌われ者
僕は昔から、ムカデが大好きだった。

彼らがとてつもなく愛おしくて、
毎日、裏庭に行っては、あの百本足を捕まえ、自室に放つ、という行動を繰り返していた。

変わった子どもだった。
ムカデが好きなんてやつ、相当いないだろう…。 僕だって、最初から好きというわけではなかった。



僕は小さいころ、両親を殺され、孤児となった。親戚は僕を毛嫌いし、小学校に行けばいじめられ、散々な毎日を過ごしていた。

誰からも嫌われ、避けられる毎日。
いつしか僕は、自分と同じように嫌われているムカデに親近感を沸くようになってしまった、というわけだ。


「四郎〜、ご飯よ〜!!」
「お兄ちゃん!早く早く!!」

そんな僕を引き取ってくれたのは滝野一家だ。滝野一家は僕を本当の家族として、10年間育ててくれている。妹の彩も、僕のことを本当の兄として慕ってくれる。

「わかった!今いく!!…あ、おはよう」
僕は部屋の隅で蠢いている百本足に挨拶をして、階下におりた。

「母さん、父さん、彩、おはよう。」
「「「おはよう」」」
「早く食べて、学校へ行きなさいよ」
「はい」


僕はこの新しい家族が大好きだ。
大好き"だった"。


その日の夜のことだ。
なんとなく眠れなくて、時計を見た。
「午前1時…」

トイレに行こうと階段をおりていると、父と母と妹の声がした。

「○○はいくらで売れるだろうか?」
「××をとれば〜×××」

なんだろう、よく聞こえない。
僕は声のするリビングに近づいた。

「もうそろそろ、売ってもいいころだろう」
「そうね、もう12歳になるものね」
「臓器とか、高く売れるんでしょ?」
「そうよ、高く売れるわ、彩の新しい服だって買ってあげられるわよ」
「やったぁ、早く売っちゃおうよ」
「「「「四郎を」」」



うそだ。
うそだうそだうそだウソダウソダ
うそだ。 嘘だ。

今まで僕は騙されてたというのか?

「許せない」

結局皆、僕のことが嫌いなんだ。
僕は嫌われ者なんだ。ムカデのように。


僕は涙目で部屋に戻った。

「売られる前に逃げなきゃ」
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