背番号6、最後の青春



時間になったからと帰る間際、弘也がみんなに言いたいことがあると言った。

途端に室内が静まり返り、みんなが弘也の言葉を静かに待つ。

「俺、今日本当に楽しかった。みんなと会えて話せて、みんなの練習を見れて。

ずっと病院にいてさ、サッカーできなくて辛くて挫けそうだった。

でも、今話しててさ、待ってるとか言ってくれてさ、マジで嬉しかった。

…俺、…みんなが、チームメイトで、本当に良かった…」

弘也の声が震え嗚咽を繰り返す。

だけど誰も何も言わずに、優しく優しく微笑むばかりだった。

弘也が泣いた。初めてこんな人前で。

だけど誰も弘也の涙には触れずに、みんなの代表として陸空先輩が、

「必ず帰ってこいよ。みんな、お前を待っているんだから」

そっと背中を押す一言をこぼした。


きっと、弘也にはクドクドとした慰めよりもずっと、涙に触れない方が幸せだから。

背中を押したほうがずっとずっと、幸せそうに笑うから。


涙ながらに笑顔を浮かべて何度も頷いた弘也。

「帰ってくる、帰ってくるから、」

震える声で何度も繰り返す弘也に投げかけられる声援。

真実を知る俺は、菜乃ちゃんは、花恋ちゃんは、一体どんな顔をしているのだろうか。

きっと、弘也が幸せならと笑っているのだろう。

弘也のシアワセを願う俺らは。

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