嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
キミの異変
「あー……またこの時期がやって来た……」


タメ息交じりの声が2人しかいない教室に響いていく。
そんな私を無視する様にシャーペンを走らせるのは正輝だった。

夏休みもあっという間に終わり、制服が夏服から冬服へと変わって。
ブレザーへと身を包んだ私とキミ。
夏服も似合っていたけれどブレザー姿も様になっているキミを見ながらタメ息を吐いた。


「またテストとか嫌だー!!」


誰もいない事をいい事に叫ぶ私。
キミはチラリと私を見ると呆れた様な顔をした。


「そう言って結局やるんだから、さっさとやれば?」

「もう!これだから頭いい人は!!」


冷たい言葉を放つキミに顔を背けて首元に掲げられているネックレスを人差し指で撫でる。

誕生日に正輝に貰ったハートのネックレス。
大好きなブルーの石が綺麗で、見ていて笑顔になれる。
私の宝物だ。

暫くそうしていればキミはタメ息を吐きながらこっちを向いた。


「……アンタさ……そんな顔でそれを見ないでよ」

「そんな顔って?」

「幸せそうな顔」


キミがあまりにも真っ赤な顔で言うから私まで紅くなってしまう。
むず痒い気持ちを誤魔化す為にワザとらしく笑いながらシャーペンを握る。


「さーて!勉強しようかなー!」

「う、うん……早くやりなよ」

「や、やるよ!」


2人でしどろもどろになりながらも勉強を始める。
まずは何からやろうか、と、悩みながらチラリと右側を見る。

10月に入って席替えをして。
また隣同士になった私たち。

窓側の1番後ろが私でその隣がキミ。
席替えをすると聞いた時は嫌だったけれど隣がキミだから良かったって思うんだ。

ほんのりと温かくなった胸。
幸せな気分に浸りながら嫌いな勉強を始めた。
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