嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「ねえ、ここ教えてよ」

「んーどこ?」


正輝は自分の教科書を指で叩きながら私を見つめる。

私がキミに教えて貰う事はあっても。
私がキミに教える事はあまりない。

でも現代文や古典はこうしてキミに説明する機会が増えたんだ。


「ここ」

「あーこれは……」


説明をしながらキミの顔を見れば真剣な瞳で教科書を見つめている。
頷きながら私の話を聞く正輝に胸がトクンとなった。
頭いいくせにこうやって人に教えて貰うのにも躊躇いがないもんな。
普通はプライドとかが邪魔をして素直に聞けないと思う。
それがないから正輝は本当に頭がいいんだろう。


「なるほどね。
アンタの説明、分かりやすいから助かる。
……ありがとう」


キミは小さく笑って自分の世界へと戻って行った。
その姿は真剣そのもので、何故か私まで頑張らないと、という気持ちになるんだ。


「……やりますか……」


小さく呟いて教科書と向き合った。
キミと一緒にいる様になってから私は変わったと思う。

前までならこんなに真剣に勉強なんてしなかったし。
授業後に学校に残ろうなんて思わなかった。

だって、学校なんて。
醜い感情の溜まり場みたいな場所で。

いくら誰もいないからといって落ち着けるような場所ではないのだから。

キミが転校をしてくるまでは大嫌いだった学校。
だけどキミが隣にいてくれるなら。
学校だって、何処だって、大切な場所に変わるんだ。

でも1番は、あの海だけど。
あそこに2人で居る時が1番……幸せを感じるんだ。

シャーペンを止めて、思い浮かべるのはあの海の事。
また早く行きたいな。
考え出すとキリがなくて勉強がはかどらないんだ。
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