嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
醜い世界に一筋の光
強い日差しが容赦なく降り注いでアスファルトに熱を溜め込む。
ジワジワと上がってくる熱気が更に暑さを際立たせていて、人々の心にほんの少しの苛立ちを与えていた。

こんなに暑い中。
しかも真昼間に歩く物好きは少ないのか周りを見渡しても誰1人の姿も見えない。

こんなに気持ちが良いのに。
ん、と伸びをしながら空を仰げば雲ひとつない青空が広がっていた。

ミンミンと鳴き続ける蝉も、降り注ぐ光も、綺麗な青も。
全部が綺麗で清々しいのに、誰もそんな当たり前な事に目を向けない。

蝉の声を聞けば、煩いと耳を塞ぐ。
降り注ぐ光を感じて、暑いと文句を並べる。
綺麗な青を見て、何も感じずに視線をずらす。

誰かにとってはくだらない事でも。
私にとっては大切なモノだった。

だってこんなにも綺麗なものは他にないから。

汗ばむ額を手の甲で拭って1歩ずつ大地を踏みしめた。
スニーカーの裏から熱が伝わってきて少し熱く感じるけれど。
そんなものは何とでもない事だ。

チラリと腕時計を見れば1時を回ろうとしていた。
気が付けば5時間もこうして歩いていたのか。
少し驚きながらも歩く事をやめなかった。

私にとっては珍しい事ではないから。
学校が休みの日は必ずと言っていいほど1人で出歩くの日課になっていた。

いつからだろうか?
そんな事は覚えてはないけれど。
きっと、物心がついた時から、私は1人になろうとしていたんだ。

人の声や、人の目が届かない様に。


「……くだらない……」


ポツリと呟いた声は誰にも届かずに街へと溶け込んだ。

時々フワリと私の体を撫で上げる生暖かい風に背中を押される様にあてもなく足を進める。

さて、今日は何処に行こうか。

何も考えずに、足の赴くままに。

願わくば人のいない、遠くの世界へ。
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