5年目に宝箱を開けたなら
……ああ、なんてことだろう。
あのとき完全に眠っていたと思っていた彼がまさか、今になってそんなことを言って来るなんて。
もう、5年も前のこと。私が就職を期に実家を出た日の朝、一度きりの過ちを、どうして、今。
だけどそれを、素直に認めるわけにはいかない。私はあくまで動揺を見せないよう、小さく息を吐いた。
「な……に、言ってるの。キスなんて、そんなの、誰がいつ」
「一花ちゃんがこっちに引っ越す日の朝、俺の家に挨拶に来たとき。ていうかあれだって、あの時間ならまだ俺が寝てると思って早めに来たんでしょ?」
「………」
「たしかにまあ、あの日日曜日で部活も休みだったから俺はまだ寝てたけどさ。でも一花ちゃんがキスしたとき、気付いて目が覚めたよ」
千晴くんの言葉に、あの朝のことが鮮明に思い出される。
彼が言った通りだ。私は千晴くんと顔を合わせないように、わざと早い時間を狙ってお隣りへ挨拶に行った。
そのとき会った彼のお母さんに、「まだ千晴は上で寝てるから声かけてやって」と半ば無理やり部屋に送られて。それでも話しかけたりするつもりはなく、ただ少し、顔が見られたらそれでよかった。
ただ、寝顔を盗み見るだけで。それを最後に、この想いとは、決別しようと思っていたのに。
「……ッ、」
くしゃりと、顔が歪む。きっと今の私は、泣き出しそうな表情をしているのだろう。
だって、ずっと。ずっと後ろめたく思っていたことが、今まさに、暴かれようとしている。
千晴くんはじっと私を見つめたままだ。彼はあのキスを確信している。もう、言い逃れはできない。
「な、なんで……気付いてたなら、すぐ、」
「だってあのとき、一花ちゃん泣いてたから。いきなりキスされたのと泣いてるのとで驚いて固まってたら、一花ちゃんさっさと帰っちゃうし。しかもその後は、俺のこと徹底的に避けまくってるし」
「………」
「だから今、教えて。あのキスの意味」
あのとき完全に眠っていたと思っていた彼がまさか、今になってそんなことを言って来るなんて。
もう、5年も前のこと。私が就職を期に実家を出た日の朝、一度きりの過ちを、どうして、今。
だけどそれを、素直に認めるわけにはいかない。私はあくまで動揺を見せないよう、小さく息を吐いた。
「な……に、言ってるの。キスなんて、そんなの、誰がいつ」
「一花ちゃんがこっちに引っ越す日の朝、俺の家に挨拶に来たとき。ていうかあれだって、あの時間ならまだ俺が寝てると思って早めに来たんでしょ?」
「………」
「たしかにまあ、あの日日曜日で部活も休みだったから俺はまだ寝てたけどさ。でも一花ちゃんがキスしたとき、気付いて目が覚めたよ」
千晴くんの言葉に、あの朝のことが鮮明に思い出される。
彼が言った通りだ。私は千晴くんと顔を合わせないように、わざと早い時間を狙ってお隣りへ挨拶に行った。
そのとき会った彼のお母さんに、「まだ千晴は上で寝てるから声かけてやって」と半ば無理やり部屋に送られて。それでも話しかけたりするつもりはなく、ただ少し、顔が見られたらそれでよかった。
ただ、寝顔を盗み見るだけで。それを最後に、この想いとは、決別しようと思っていたのに。
「……ッ、」
くしゃりと、顔が歪む。きっと今の私は、泣き出しそうな表情をしているのだろう。
だって、ずっと。ずっと後ろめたく思っていたことが、今まさに、暴かれようとしている。
千晴くんはじっと私を見つめたままだ。彼はあのキスを確信している。もう、言い逃れはできない。
「な、なんで……気付いてたなら、すぐ、」
「だってあのとき、一花ちゃん泣いてたから。いきなりキスされたのと泣いてるのとで驚いて固まってたら、一花ちゃんさっさと帰っちゃうし。しかもその後は、俺のこと徹底的に避けまくってるし」
「………」
「だから今、教えて。あのキスの意味」