彼女と傘と紫陽花と
彼女と傘と紫陽花と


 紫陽花の季節になると現れる人がいた。
 可憐でそこはかとない芯の強さを持つ瞳が印象的だった。

 初めて見たかけた時、彼女の傘は雨雲を蹴散らすほどの綺麗なブルーで、なのに手に抱かれていたのは梅雨に咲くしっとりとした紫陽花だった。

 彼女には向日葵のような、夏の太陽をめいいっぱいに浴びた元気の湧き出ているような花が似合う気がした。

 梅雨に咲く、傘と同じ青や紫がかった紫陽花の花束を、彼女はとても大切そうに抱えていた。

 しとしとと降り続いていたあの日の雨は、確か一週間ほど続いていた記憶がある。
 ブルーの傘に降り立つ小さな雫が重なり合い身を寄せ合い、少し大きな粒となってアスファルトへと落ちていった。
 落ちてしまった先では、雫でも粒でもなくなった雨たちがたくさんの水たまりを作り、歩く彼女の足元を濡らしていた。

 彼女の差すブルーの傘に気を取られていたら、まんまと大きな水たまりにはまってしまった僕は、濡れてしまったスニーカーに顔を歪め、あぁ……と声を漏らしてから顔を上げたのだけれど、少し先を歩いていた彼女の姿はもう僕の視界の中にはなかった。

 大切に抱かれていた紫陽花も、彼女とともにどこかへ消えていた。



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