渡せなかったラブレター
合ってしまった
その目を
どっちも
そらそうとは
しなかった

その一瞬
あたしの目には
章弘しか
映ってなかっただろう

周りの風景が
消えたように
章弘だけが
見えた

背の高い
章弘に合わせて
だんだん
目線が上がっていく


その瞬間


章弘は
すっと
あたしの横を
通り過ぎていった


分かってたんだよ

分かってたはずなのに
息が止まっていた

思い出したように
空気を吸い込むと
すり抜けた場所に
章弘の
かすかなにおいだけが
残っていた

昔何気なく
浸っていた
章弘の部屋のにおいだった


涙が出そうだった


「どうしたん?」


友達の声で
我に返ると
涙はちゃんと
こらえることができた


あたしに
泣く資格なんてない

最後に
手を離したのは
きっと
あたしだから

寂しさに負けて
章弘を
一人ぼっちにさせたのは

先に
ひとりぼっちにさせたのは


また
あたしだ









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