空を祈る紙ヒコーキ

 そういうわけで普段は入学当時と変わらず地味だけど、愛大にメイクしてもらった時だけ私は別人みたく華やかに化けて動画サイトでの評価に貢献できる。知らない人に歌さえ聴いてもらえればいいんだけど、メイクひとつでこうも変われる自分にワクワクしたのは本当で、少し大人になれたかも、という、勉強では感じられなかった類いの充実感もあった。

 そういう感じでメイクもバンドも自己満足してしまっている部分が大きいから自分の心境に変化をもたらすのは分かる。でも、それが他人の、それも片想いの相手に影響するだなんてちっとも思っていなかった。

「俺と同じクラスの奴らも涼のこと可愛いって。紹介してとか言われる。すごい嫌」

 それって……。紙一枚ほどの恋愛経験もないけど、空の気持ちが手に取るように伝わってきた。

「もしかして私のこと好きなの?」

「……!! ド直球だな」

「だってそういうことだよね」

 外見的な美しさで言えば、メイクなんて必要ないほど整った顔をした愛大の方が断然レベルが高い。私なんて地味だし愛大に教えられなかったら普通にスッピンで公開用の映像に映ろうとしていた。服とかも着られればいいやという程度の関心しかないし体重なんて気にせず好きな物を好きなだけ食べる。それに比べたら愛大の方が女子力も美意識も高い。愛大は太らないよう常に食事に気をつけているし同じ高校生とは思えないくらい肌や髪のケアにも気を使っている。そのうえ人当たりや性格までいい。

 そんな愛大が近くにいるのに私の恋愛事に興味を示すなんて、理由はひとつしか考えられない。

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