空を祈る紙ヒコーキ

 たしかにこの制服は着るのに勇気がいるし、朝乗ってきた電車の中でもやたら視線を感じた。愛大の言うところのチェックをされていたんだろう。どうせ私はろくな評価を受けていないだろうけどそんなことはどうでもいい。私の行きたかった進学校に比べたら音羽台はハッキリ言って底辺高だ。

「なんか他の子とは違うと思ってたけど納得! 可愛いのにそれをひけらかさない涼はクールでカッコいいね。アタシ好き! 似合ってるよ、制服」

 愛大は屈託なく笑った。彼女の全身からこれでもかというほど好意が放たれているのが分かる。女子にこんなにもストレートに好きと言われたのは初めてで反応に困った。何も言えず苦笑いする。嫌われることには慣れていたけど好かれることには免疫がない。

 音羽台の生徒がそこまで周囲から注目を浴びているなんて知らなかった。ちょっと制服が可愛いだけでどこにでもある私立高校だとしか思っていなかったし、私にとっては本命の進学校こそが全てだったからそれ以外の高校はどこも価値がない。諦めの悪いことに今でもそういう思考が頭にこびりついている。

 愛大はやっぱり違う世界の住人だ。私のことをよく知らないのに簡単に好きだと言う。きっと馬鹿なんだ。私には絶対できない。ちょっと見てすぐに人の欠点ばかり探してしまう私には……。

 どうしたらこんな明るく前向きな性格になるんだろ。やっぱり親かな。可愛がられて育ったんだろうな、愛大は。

 ぼんやりそんなことを考えていると、愛大は校庭越しに昇降口を眺めた。昇降口付近には保護者同伴の生徒が何人か固まっている。親子で一緒に帰るところみたいだ。

「涼、親は?」

「来てないと思う。仕事って言ってたから」

「そうなんだ。アタシも〜。ま、この距離だしね! 遠い高校なら一応来てくれたんだろうけど。涼んちは遠いの?」

「電車ですぐだよ。1時間もかからない」

「そうなんだ。帰り気をつけてね」
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