空を祈る紙ヒコーキ
「メンバー募集って本気なんだ。そんなのやる人いるの?」
バンドとか軽音楽部なんて私には無縁の世界だし興味もなかった。大学進学には役立たなそうだし、空は偏差値まあまあの特進科に在籍する身だ。将来の足しにならない部活動を望んでやる理由が分からないしそんな高校生が他にいるとも思えない。
「涼は興味ない? 音楽」
「ないよ」
軽音楽部に誘おうとしてる?
「趣味は?」
「勉強」
変に勧誘されたら面倒だしそんなもの全く興味がないので嘘をついた。過去の私にも心躍る趣味があった。
父が音楽の好きな人で、父の運転する車の中には常に誰かの曲が流れていた。ろくでなしだけど選ぶ曲だけは名曲ばかりだったとお母さんがいつも嫌味を言っていた。CDを買う金があるなら食費をよこせと言い合いもしていた。
親が離婚する前まで私は詩をよく書いていた。今思えば下手な落書きよりひどいものだったしそんな経験は黒歴史でしかないけど、あの頃は子供ながらにプロを気取って最高の詩を書けたと満足していた。
「涼の本棚、参考書いっぱいあったもんな!」
バンドメンバーへの勧誘を諦めた空は、やや未練のにじむ声音で無理にそんなことを言った。
「勉強はいいよ。自分を裏切らない。頑張れば頑張った分成果が出る。何より将来のためになる」