空を祈る紙ヒコーキ

「ああいうの見るとつい、な」

 おもちゃの子供がいなくなった後、彼らのいなくなった方を向いて空はため息をついた。

「どうして人は人をいじめるんだろ」

「分からないよ、そんなこと」

 本当は分かる。自分より弱い(と思う)相手を傷つければ自分の優越感やプライドが満たされるし、何よりストレス発散になるからだ。私がそうだった。不幸なのは自分ばかりじゃない、そう思いたいがために誰かの傷を見て喜ぶ。

 私の個人的な意見だけど、いじめる側は満たされない感情を持て余しているからそんなことをする。あるいは単純に楽しむため。

 空にはそんなことを言えなかった。前だったらポンポンとそういうことを言えたのに今はやっぱり無理。お母さんからかばってもらった恩があるからかもしれない。一緒に住み始めた頃みたく感じの悪いことを空には言えなくなった。

「ごめんな、変なこと言った。そろそろ帰ろっか」

 空は歩き出した。黙り込んだ私に気を遣ったのかもしれない。

 行きより早く坂道を降りた。住宅の合間から生活の音が聞こえた。さっきの子供達もこの辺に住んでいるのかもしれない。

「あの子、どっかで見たことあるんだよなー。どこだっけー……」

 突然、空はそんなことを言い首を傾げた。

「誰の話?」

「学校で涼がしゃべってた子」

「ああ、愛大? 目立つよね」

 可愛いしね、と、言いかけやめた。やっぱり空もああいう子が好きなのかな? そう言われたわけじゃないのに、考えただけで胸がチクリとした。

「だな。あんな子がウチのバンド入ってくれたらなー」

「軽音楽部やってるの本当なんだ」

「生徒会長は嘘言わないっ」

 空はおどける。コイツのことだから半分冗談かと思った。

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