拗らせ女子に 王子様の口づけを
エントランスで又お互い頭を下げあって、いつもの間合いで扉に向かう。
その時、スラリと背の高い営業が帰って来た。ここはエントランスだ。
色んな人の出入りがあって当たり前だ。
だけど、それが奏輔だと気づくと自然と目も行く。
あっ。帰ってきたんだ。
朝から出っぱなしだったもんな。
朝から営業部に用事があって、ホワイトボードを見たら朝から直行だったはずだ。
ふと、前を見たら秦野さんも奏輔の方を見ているような気がした。
「秦野さん?」
私が秦野さんを呼んだ声で、チラリと奏輔もこちらを見た。
目だけで挨拶するようにニコリと笑って私達の横を通りすぎようとしたとき、隣から声がした。
「野々宮くん?」
ポツリと小さく呟かれたその声を拾ったのか、ピタリと奏輔の足が止まり、ゆっくりと私たちを見た。
「いつもお世話になっております。早川、こちらは?」
「か、『カタオカ』の秦野さんです。カーテンのサンプルを持ってきていただいて」
嫌な予感がする。
「秦野?さん?」
さっきまで驚いていた顔だった秦野さんも、近くで奏輔を見て確信したのか今度はニヤリと笑っていた。
「クス。久しぶりね野々宮君。なぁに?忘れちゃった?梨花よ。秦野 梨花。酷いわね」
いきなり変わった秦野さんのフランクな話し方に嫌な予感が当たったことを悟った。
「…………梨花?梨花か。おっまえ久しぶりだなぁ。言われてみれば変わってないな」
「気づかなかったくせに。よく言うわ」
「ハハハ。悪い悪い」
「せっかく会えたけど、もう行かなきゃいけないの。これ、私の名刺。久しぶりなんだから連絡してよ」